2012年5月7日月曜日

野良猫餌付け(地域猫)問題について


Q:私はマンションに住んでいますが、マンションの敷地内に野良猫が集まってきており、鳴き声や悪臭に悩まされています。同じマンションの住民が餌をやっていることが分かり、管理組合役員が注意をしたのですが聞き入れてくれません。餌やりをやめさせることはできないのでしょうか。



A:
【はじめに】
野良猫の餌やりの問題は、それが訴訟になった場合には、不法行為として差止請求や慰謝料請求が認められるか、ということを検討することになります。

しかし、訴訟による解決には限界があります。例えば、この例で訴訟提起し勝訴したとしても、あくまでマンションの敷地内での餌やりが禁じられるのみで、野良猫はその地域に留まることになるのです。この問題を訴訟によって最終的に解決するのは不可能だと考えるべきです。

この問題はむしろ、動物愛護の精神に基いた、地域における合意形成の問題です。すなわち、野良猫の生命を尊重することを前提に、野良猫を保護したいと考える人と、野良猫が迷惑だと考える人の双方が納得できるように地域での協議を重ねることが必要です。

【訴訟の事例】
野良猫の餌やりの問題について裁判所が判断した事例として、東京地方裁判所立川支部平成22年5月13日判決があります。これは、集合住宅(タウンハウス)の管理組合と住民が、野良猫に餌を与えている同じタウンハウスの住民に対し、餌やりの停止と慰謝料の支払いを求めて起こした訴訟です。

判決では、餌やりの事実関係を詳細に認定した上で、餌やりをしていた住民に対し、餌やりの禁止と慰謝料(請求額の一部)の支払いを命じました。

この判決の原文は、裁判所のサイトで読むことができます。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100604110224.pdf

この判決で注目すべきは、動物愛護さらには『地域猫活動』に関する法制度や行政が作成したガイドラインについて概観していることです(判決文28頁以下)。

地域猫活動とは、飼い主のない猫を直ちに捕獲するのではなく、不妊去勢手術をして子猫を作らないようにし、その猫を地域住民の合意の上で、寿命を全うするまで管理していく活動のことです。

判決は、野良猫を毒餌をまくような方法で殺すことは、動物愛護法に違反し、動物愛護相談センター等での致死処分は、本来、動物愛護の精神に反するから、(それ以外の方法で)数を減少させていくことが望ましい、としています。そして、地域猫活動にも一定の評価ができるが、餌やりやトイレの設置等についての配慮や、地域住民の共通理解を図りながら行うことが必要、などの考え方を示しています。



【地域猫活動 東京都のガイドライン】
地域猫活動をどのように行っていくのが望ましいか、という点に関しては、東京都福祉保健局が平成18年3月にとりまとめた「『飼い主のいない猫』との共生をめざす街ガイドブック」が参考になります。

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kankyo/aigo/yomimono/animal_nekogaid/files/neko-guidebook.pdf

このガイドブックは、『「飼い主のいない猫」への対応としては、こうした猫を不要なものとして排除するのではなく、地域の問題としてとらえたうえで、地域特性や住民の意思をふまえ、住民先導による合意づくりやルールづくりが可能な場合には、地域の住民を主体に、民間団体や区市町村、東京都が適切な役割を分担し、問題解決に連携協働していく仕組みづくりの必要性を示し』たものとしています。後半には様々なケーススタディも収録されており、大変参考になります。

【設例について】
ご質問のケースについて考えてみましょう。

これまで述べたとおり、野良猫への餌やりが無条件で禁止される、と考えることはできません。他方、動物愛護の精神は尊重されるべきものですが、だからといって野良猫への餌やりが無条件に認められる、というものでもありません。

大切なのは、地域住民(ご質問のケースですと、そのマンションの住民が中心になると思われますが)がこの問題についてよく話し合い、情報を共有し、意見を出し合った上で、餌やりの方法などについて地域の実情にマッチしたルールを作っていくことです。

先に紹介しました「『飼い主のいない猫』との共生をめざす街ガイドブック」は、そのような話し合いを行うようにするまでの手順なども具体的に書いてありますから、そのようなものを参考に、話し合いの機会が持てるように取り組んでいくのがよいと思います。


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